今日も萌えてます

白帯ライト級腐女子のBLまんが感想

『木陰の欲望』

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作家:暮田マキネさん

6年前、病気療養という名の厄介払いで田舎町にきた御曹司である鼎と庭師の息子である瑞希、二人は親友です。とにかく瑞希がいい奴で、過去に鼎を庇って大けがを負い、背中には酷い傷跡を残しています。
端正な顔立ちの優等生鼎は女子にモテモテだけど、鼎の関心は瑞希にしかありません。親友として、喘息を抱える鼎の傍にいつもいる瑞希は女子の嫉妬の対象にもなります。そんな瑞希が女子と何気ない会話をしている姿(鼎への告白サポートを頼まれたりも含む)に嫉妬する鼎。なんてゆうか、瑞希が気の毒です。めちゃめちゃいい奴、優しい子なのに... 鼎の内心は重すぎます。「お前の世界の住人が僕一人じゃないことを思い知らされ続けなければならないのか...もう嫌だ 耐えられない それならいっそ このまま全部 奪ってしまうおうか」って、怖い。わがままな坊ちゃんめ!都合よく病気を利用するし、二人は対照的です。

鼎の身体を心配しつつ、それが過保護で、でしゃばり過ぎなのか、構い過ぎなのかと、距離に戸惑いを感じている瑞希。幼馴染の親友をずっと弟みたいに思ってきたという認識でした。年を重ね、高校生となり、身体の成長に心が追いついていかない。優しい瑞希は「気遣ってやれなくてごめん」と言います。それを「そういう優しさが人を惹きつける そして僕をつけ込ませるんだ」と思う鼎。...自覚してますね、怖いです。

鼎の心の屈折は育ちにあります。鼎は御曹司ですが、父親には妾がいて異母兄弟もいます。身体に難ありとされ、家庭内生存競争において敗者のような位置にいて、注がれる確かな愛情を実感し得なかった少年にとって、瑞希の優しさや献身が初めて感じることのできる愛情や安心だったのでしょう。
ところで鼎の異母弟を描いたストーリーがあります。『つむぎくんのさきっぽ』です。

こちらも同パターンで、鼎と同父を持つ煌成も鼎と同種の面倒くささを倒くささを持っています。血のせいか、環境のせいかってどちらも当てはまってますし。

幼い日の瑞希が鼎の境遇に同情して、鼎を守ってやろうと自分に誓いをたててきた想いが切ないです。「絶対に傷つけない 誰にも傷つけさせない そう誓ったのに足枷になっているのは俺自身なのかもしいれない」と瑞希は矛先を自分に向けるタイプです。そこが鼎とは違います。鼎は「どうあがいても お前は僕を捨てる だったら」....って、ここからの鼎は許しがたい行動に出ます。瑞希を騙して呼び出し、縛って自由を奪った上で犯すのです。そして瑞希はこんな目にあっても、自分がどうすべきだったのか、どう答えれば良かったかを考えて、---罰なんだ---と思いますが、鼎を受け入れることをできず二人に距離が生じます。そんな折、鼎がひどい発作を起こして倒れたと聞いた瑞希は鼎の元へ駆け出します。でも鼎が倒れた理由は喘息の発作ではなく”食べない、寝ない”ためであり、実は喘息はもうほとんど心配いらないまでに快復していたのでした。だから「...もうお守りは必要ない お前がいなくても平気だよ」と告げます。その頬には涙がつたっていて、その姿に瑞希は何を想うのか...
瑞希も涙します。「何でお前が泣くんだよ 僕のものにならないなら ちゃんと捨てろよ...」鼎が言った幼い日を回想しています。そう、鼎の瑞希 への想いは一貫しています。お前がいなくても平気だよの言葉の裏側にあるかつての言葉が貼りついているのです。鼎を抱きしめて「...やるよ 全部やる」だから「お前は俺が貰ってもいいよな?」と同等ではありますが、これってひとえに瑞希の献身の為せるところではないでしょうか。

だけど最後に明かされるのです。初めて出会った時の瑞希 の鼎への想いが。ここまで全てネタバレで書いておきながら、ここだけ伏せておきますね。
ホントに本当に、この作者の作品は全部好きです。描かれる世界が美しく感じられます。