『還らずの夏』
作家:暮田マキネさん
この作者:暮田マキネさんの作品は全部読みたい。いや、読みます!
...切なくて、そして温かさと色気の湿度を感じます。絵も好きです。
どうにもならないことや、どうすればよかったのかと思い悩むこと、時は巻き戻らないし、今をどうすればいいのか...考えさせられます。
- 還らずの夏
- 不機嫌なつぼみ
- 咲き初めの焦燥
- いちばんしあわせ
- All things I know
5つの話が収められています。
一話目『還らずの夏』はたまらなく哀しいです。泣きます。最愛の人を亡くしたら、幽霊となってもそばに居続けてほしいでしょうか?自分の命が続く限り、自分にしか見えないその人と、触れることもできずとも。会話ができても、共有はできません。聞いてもらうばかりです。甘く残酷な生き地獄だと思います。手放さなければならない辛さ。愛しているからこそ失わなければ生きていけないのだと思いました。
二話目『不機嫌なつぼみ』と三話目『咲き初めの焦燥』(続話)はオメガバースの話です。オメガバースを最近まで知りませんでした。小説サイトで人気の特殊設定だそうです。それは、この世界には、男女に加えて【α性】【β性】【Ω性】があり、全部で六種類の性が存在するというもの。
α:生まれつきエリートでカリスマ性を持ち、ゆえに社会的地位が高く動物の世界でのボス的な存在
β:普通の人間。人口割合は一番多く、β性はβ性同士で結婚し家庭を作るのが一般的
Ω:男女問わず妊娠が可能で、種の繁栄の為の存在として扱われている。定期的に発情期を迎え、仕事などに支障をきたすため、設定上は社会的地位が低い場合が多い。Ωの男性は発情期間のみ直腸の奥に子宮に相当する生殖器官が生成され妊娠が可能となる。発情期間はフェロモンを抑える抑制剤を服用しなければならない。
番について:αとΩは番という関係性を築くことができる。この関係性は恋人や夫婦関係よりも強く、世界中で唯一の【運命の番】と出会ってしまうと強く惹かれてしまう。基本的には死ぬまで解消されないが、α性からのみ解消可能。
説明によると優性なα、普通なβ、不憫なΩってコトでしょうか。種の繁栄の為の存在って...産む機械?居たたまれません。なかでも男性Ωが最もつらいのではないでしょうか。
Ωの生は諦観の生 多くを望めば悲嘆もまた大きい 主人公はこう思っていました。
発情期を未だ迎えず、Ωを隠しβに擬態していた主人公(男)は発情期なんて厄介なサイクルがないおかげで、やりがいのある仕事・与えられたイス・安定した収入を得ている...だから手放すくらいなら一生一人で構わないと思っていました。でも本当は惹かれていた同期入社のα(男)。最終的には運命の番として結ばれるので良かったけれど、オメガバース作品には抵抗を感じます。いくつかオメガバース作品を読みましたが、Ωが虐げられているものにはやはり嫌悪してしまいます。
四話目『いちばんしあわせ』不幸感漂う始まり...「貴女を恨んだことは一度もないよ 母さん どんなに殴っても命までは奪わなかった 一度として与えてくれなかったから ぬくもりに飢えることはなかった」 これは絶望でしょ。歪な愛情関係の二人が登場します。絶望の果てのしあわせ?難しいなぁ。
五話目『All things I know』は『ファザー・ファッカー』
の前話です。血の繋がらない父子の物語で、禁断・背徳感はありますが、愛情と官能がなんとも魅力的です。
いずれも読み返したくなります。